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福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)506号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

(被控訴人の請求原因)

一  中村製作所こと中村仁は、昭和四八年一二月五日支払停止をして、翌四九年一月七日福岡地方裁判所吉井支部に破産の申立をなし、同庁において、同年七月一八日午後二時同年(フ)第一号事件の決定として、右中村仁を破産者とする旨を宣告され、同時に被控訴人がその破産管財人に選任された。

二  別紙物件目録記載の各物件は破産財団に属するものであるが、破産者は、破産宣告前の昭和四八年一二月一日、株式会社かね久との間に、右各物件につき同会社を借主として次のごとき内容の賃借権設定契約をなし、同月五日その旨の登記を経由した。

建物の賃貸料 一平方メートルにつき月額二五円

建物の賃貸期間 満三年

宅地の賃貸料 一平方メートルにつき月額一〇円

宅地の賃貸期間 満五年

各賃料支払期 毎年一一月末日

特約 賃借権の譲渡、転貸ができる。

三  控訴人は、昭和五〇年四月一〇日、株式会社かね久から前記賃借権の転貸を得て、同年九月二二日その旨の登記を経由し、別紙第一、第二目録記載の各物件を使用している。

四  別紙物件目録第一記載の建物(以下、本件建物という)に対する賃借権は、昭和五一年一一月末日期間満了のため消滅し、同目録記載の土地(以下、本件土地という)に対する賃借権は、原告ブリヂストンタイヤ西九州販売株式会社、被告株式会社かね久外一名間の、福岡地方裁判所吉井支部昭和四九年(ワ)第七号賃貸借解除等請求事件の同年一二月一二日口頭弁論期日における右被告らの認諾で消滅したので、控訴人の転借権も消滅した。

仮りに、本件土地、建物に対する賃借権が消滅していないものとしても、控訴人の転借権は、破産宣告後、破産者の法律行為に困らずして取得したものであるから、破産法五四条一項により、その取得をもつて破産債権者の代理人たる資格を有する被控訴人に対抗することができない。

五  本件土地建物の賃料は一か月五万八、二八五円を相当とする。

六  よつて、被控訴人は控訴人に対し、本件土地建物の明渡と賃貸借終了後である昭和五二年五月一日から明渡ずみまで賃料相当の一か月五万八、二八五円の割合による損害金の支払を求める。

(請求原因に対する控訴人の答弁)

一  請求原因第一ないし第三項、第五項の各事実は認める。

二  同第四項の事実のうち、被控訴人主張の訴訟事件において認諾がなされたことは認めるが、その余は否認する。

本件土地建物についての控訴人の転借権は借家法二条等に基づき法定更新され、存続している。

また、被控訴人主張の訴訟事件の認諾調書の効力は該事件の当事者でない控訴人に及ぶものではない。

さらに、控訴人の本件土地建物の転借権の取得は破産法五四条一項に該当するものではない。被控訴人主張の破産財団に属するに至つた本件土地建物は、譲渡、転貸自由なる本件賃貸借の負担付のものにほかならないから、無負担の資産に関する破産法五四条一項の適用を受くべきでなく、被控訴人の主張は失当である。

(証拠関係)(省略)

理由

一  請求原因第一ないし第三項の各事実は当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いのない事実によると、破産者中村仁は支払停止の四日前に本件土地建物を株式会社かね久に対し、賃借権の譲渡、転貸ができる旨の特約付で賃貸し、控訴人(なお成立に争いのない甲第二号証並びに当審における控訴人代表者中村ヌイ本人尋問の結果によると、控訴人は右中村仁を取締役とし、その実母中村ヌイを代表取締役として、昭和四九年八月五日設立された会社であることが明らかである。)は本件破産宣告後、破産財団に属する本件土地建物を右株式会社かね久から転借したものであるが、控訴人の右転借権の取得は、破産法五四条一項により、これをもつて破産債権者に対抗できないものといわねばならない。

けだし、破産財団は破産宣告によつて破産債権者全体のために差押えられたのと同一の地位にあるものというべく、破産宣告後において破産管財人の行為によらないで新たな賃借権者または転借権者が出現することはこれを防止すべきであり、また破産者が破産宣告前に破産財団に属すべき財産についてなした賃貸借契約における賃借権の譲渡、転貸ができる旨の特約の効力は、破産宣告によつて破産者が破産財団に属する財産について一切の管理処分権を喪失すると同時に、破産債権者に対抗できなくなるものと解するのを相当とするからである。

三  しかして、控訴人の本件土地建物に対する占有権限について他に主張立証はなく、(当審における控訴人代表者中村ヌイ本人尋問の結果によつても控訴人の占有権限を認めるに足りない。)請求原因第五項の事実は当事者間に争いがない。

四  以上の次第であるから、本件破産財団を管理する被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

五  よつて、原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙物件目録は第一審判決添付の物件目録と同一につき省略)

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